新・おんがくの時間

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何故、山田亮一は人情を唄うのか——?音楽の未来への賞賛と反抗

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2月4日、渋谷O-Crestにてフィッシュライフ自主企画の「太平洋大作戦4」が開催された。対バンには、解散を既に発表しておりこのライブを含めて残り三本で活動を終了する或る感覚、そして毎度おなじみ私の大好きなバズマザーズが名を連ねた。フィッシュライフからすれば、大先輩の2バンドとの3マンということで相当緊張していたに違いないだろう。私はバズマザーズ目当てで行ったわけだが、他の2バンドの演奏もしっかりと見させていただいた。

 

解散を前にして他のバンドには無い覚悟を露わにした、鬼気迫る演奏を繰り広げた或る感覚。たとえ”綺麗ごと”だとしても、それに救われて音楽をやってこれたと語り、力いっぱいに音楽の楽しさを伝えてくれたフィッシュライフ。どちらも最高のライブを見せてくれたと思っているし、現に私はとても充実した。

 

 

本題。

 

さて、「またバズマザーズの話?」と思っている方もいるかもしれないが半分正解で半分間違いである。詳しくはこの先の文章を読んでから判断してほしい。

 

今日お目当てのバズマザーズのライブは、いつも通りバカテク目白押しの迫力あるステージだった。新曲「ソナチネ」を披露したり、ライブには欠かせないナンバー「ワイセツミー」「キャバレー・ナイト・ギミック」なんかもしっかりやってくれて、申し分のないライブだったわけだが…今日一番印象に残っているのは先日このブログでも紹介した新曲「傑作のジョーク」に他ならなかった。

 

 

hyena-ongaku.hatenablog.com

 

 

今日演奏した曲の中では控えめな曲調ではあるが、何度も言うようにこの楽曲はメロディや演奏よりも歌詞を読んでほしいのだ。そして、詩人・山田亮一の才能がいかんなく発揮されているこの曲をしっかりと耳に焼き付けて聴いてもらうためとも捉えられるような小話をひとつ、山田はこの日唯一のMCで静かに言い放った。

 

 

 

 

 

バズマザーズの存在証明

 

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山田は時にファンから「なぜ最近はリアルな人情や人間の生き様を主題とした歌詞を書くのか?」という質問を受けるそうだ。実際山田は実体験を参考にしたかのごとく生々しい人間の姿を歌詞に投影しているという印象は私にもあったわけで、本人曰く昔からずっとそういった歌詞を書いてきたつもりだと言うが、確かにそれは疑問となりうる話題であった。

 

ハゲよりも目立つヅラのおっさんと、ワンカップを賭けて一局打てば
お留守になった飛車を容赦なく取られ、人生待ったなしやと笑った

豹柄のトップスのオバハンが言う
「辛い時こそ人生笑うベキや。だからこの町の人間は皆、いつも笑顔や」とやっぱり笑って

 

(おー新世界/バズマザーズ

 

 

「君を愛してる」「あきらめないで 夢はかなう」、そんなありきたりな歌詞は今の邦楽にはごまんとある。そして、そんな歌詞の楽曲が売れていることも事実だ。私には少し薄っぺらいようにも感じるが、とりあえずそれらしいことを言っておけば今の若者の心には響くような仕組みになっているのだろう。そんな時代にあえて小難しい単語をリズムよく並び立てたり、ストーリー性のある簡単に理解しがたいような歌詞を書くというのはある意味現代の流れに逆らってるようにも見える。

 

 

そんな山田の書く歌詞を好む私のような輩が一定数いるのは確かだが、果たしてそんな歌詞を書くのには何らかの目的があるのか?それともただ単に山田亮一という人間の癖なのか?というところはいまいちわからなかったし、そんなことわかる術もないと思っていた。

 

しかし、ついに彼はその理由を語った。少し古臭く、懐かしいような人情溢れる個性的な歌詞を書くのには、確固たる山田の意思があってのことだった。

 

 

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時代は進み、機械が歌を歌い、歌を作るような時代になった。そして、人工知能が勝手に作詞作曲の技術を持つようになり、その作られた歌詞やメロディを人間が自ら組み合わせて誰でも音楽が簡単に作れるという世界がすぐそこまで迫ってきているのも確かだ。「そんな時代が来ることは、とても素晴らしいことだと思う」と山田は言う。

 

しかし、そんな時代が来てしまったら”個性”はどんどんと埋没していき、”感情”は失われていくだろう。人工知能というデータベースという限られた領域の中で人間は満足を覚え始めてしまう。果たしてそれは、良いことなのか悪いことなのか…その区別さえつかなくなってしまうのかもしれない。

 

そんな未来になったとして、バズマザーズはどうやって生き延びていけばいいのか。メロディの構成や、リズムパターンは容易に真似が効く。そうしてしまっては、バンドの価値はどんどんと下がっていってしまう一方だ。そんな中では、何か時代に太刀打ちできる「武器」が必須になってくるわけだ。

 

 

そう、山田の書く「歌詞」である。

 

 

窓に朝は降って来て 明日をまた強制起動
是非もなく飲む現実が 俺を「不要」と、終いに消去
ならばオズのない旅で喚き鳴らす狂想曲の
アウトロダクションの果てに消えてしまえ、お前の凶も

 

ハイエースの車窓から/バズマザーズ

 

 

 

山田の書く、人間の奥底に宿るどろどろとした心情や、人生の不条理に嘆き悲しみながらも生きながらえていく寂しくも滑稽な姿を写実的に表現した歌詞を、どうやって人工知能が真似できるのだろうか。”アウトロダクションの果てに消えてしまえ、お前の凶も”なんていう謳い文句は、紛れもなく彼にしか出せない「武器」である。

 

最近のバズマザーズの歌詞には特に、山田の個性が強く表現されているものが多いと感じている。様々な困難を経験した彼が、今になって思う「音楽の在り方」はおそらく若いころとは全く異なっているものなんだろうと、歌詞を読みながら推測する。だからこそ、時代の潮流に抗ってでもブレずに歌詞を書き続けられるんだろう。

 

 

 

そして。どんな時代になっても、バズマザーズが価値のある音楽でありつづけるために、今日も山田亮一はライブハウスで唄うのであった。

 

 

 

 

「それでは最後に、傑作のジョークをひとつ」